B:餌肉狩りの漁師 手掴のギウスィー・アース
「ギウスィー・アース」は、フラウンダー一味のオンド族だ。
手掴み漁の名手で、深海から浅瀬まで自在に泳ぎ回り、大物の海獣を次々仕留める凄腕の漁師なんだと。なんだって奴が、リスキーモブで指名手配されているかといえば、奴は願掛けの一種で、海獣漁の餌に、ほかの漁師を使うらしい。
オンド以外の漁師といえば……そう、コルシア島の漁船が襲われる。最近じゃあ奴を怖がって、船を出したがらない漁師もいるそうだ。島から次の犠牲者を出す前に、奴を仕留められればいいんだがな。
~ナッツ・クランの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
きっかけは俺がまだ駆け出しの漁師だったころの話だ。
俺は幼い頃からオンドながらもモンクとして人間からも一目置かれる実力を持っていた父親に体術を仕込まれた。まぁ、人間から見れば異形の生物であるオンドだから不遇の武術家人生だったようだが。オンドは巨大な海獣と相対することも多いから武術家としてというよりは生きる術として武術を仕込んだことは今なら分かる。それに俺は生まれつき体格に恵まれていたこともあって元々腕っぷしには自信があったし、実際漁に出ることが認められる18になるまで部族間の抗争に駆り出されても仲間内の喧嘩でも負けたことは一度もなかった。だからどんな海獣が現れても一人で仕留める自信があった。
だが、漁師になってはじめてわかったことだが、俺には漁師として致命的な欠点がある事に気が付いた。獲物の習性を理解したり、行動を予測して魚や海獣たちを見つけることが絶望的に下手だったのだ。お陰で駆け出しのころの俺は「徒労の帝王」とか手掴み漁をもじって「手ぶら漁」などという不名誉なあだ名で呼ばれていた。それでも漁をやめなかったのは俺の負けず嫌いな性格が理由だった。
武術に自信があった俺は本当であればその道で生計を立てたかったのだが、絶対的に少数なオンドの社会の中では武術で生計など立てられない。どうしたって絶対的多数から成る人間の社会に飛び込んで認められなければならないのだが、人間はなんだかんだ綺麗事を言っても異形の者を差別する。それは彼らにとって無意識な行為なのかもしれないが、オンドが人間の社会で成りあがるのはまず不可能なのだ。仕方なく俺は武術の道をあきらめた。そして武術を諦めた俺が取り組んだのが漁師だ。それだけに今回は負けを認めたくなかったのだ。
そんな致命的欠陥のある俺でも時折、幸運に恵まれ獲物を仕留める事が出来たりして、なんとか細々と漁師を続けていた。
そんなある日の事だった。俺は漁に出た俺は一隻の船が転覆し、人間が投げ出されているのを見つけた。俺は慌てて救助に向かった。乗組員は7人。俺は溺れかけていた3人を両手と首に捕まらせ、近くの岩礁の上に避難させ救った。さらに海面に浮かんでいる人を救いに戻ると、残る2人は既に鮫に喰われて辺りは血の海だった。パニックになっていた残る2人を両手に抱え同じように岩礁へと運んだ。その時海中に見たんだ。人の血の匂いに吊られ集まった鮫どもの向こうに、大型海獣が数匹、やはり血の匂いを嗅ぎつけて集まってきているのを。俺は一瞬ろくでもない事を考えたが、だがすぐに頭を振ってその考えを打ち消した。その時はな。
そしてその日から数年たったある日、俺の元にこんな話が舞い込んだ。オンドによって組織されたオンドの為の漁団を作るという話だ。俺のように幸運に恵まれない限り獲物を揚げられない漁師にとってはまたとない話だった。漁団に入れば月々決まった給料と成果報酬が出るので喰いっぱぐれる事はない。俺は喜び勇んで申し込みを済ませた。だが、漁団には入団テストがあった。入団テストは海獣類を数匹水揚げして漁団に収めるというものだった。果たして水揚げできるだろうか、俺は一抹の不安を抱えた。
そしてのぞんだ漁団の入団テスト当日、朝早くから海に出た俺は目を皿のようにして海獣類を探した。だが海獣類が捕食者である俺の都合に合わせてくれるはずもなく、一匹も姿を見ることなく夕方の締め切り時間が迫っていた。焦った俺はそこで思い出しちまったんだ、あの日見たものを。そして、後がなくて藁にも縋りたい俺は、ついそこに踏み込んでしまった。
俺は周辺で漁をする人間の漁船を見つけると、船の下に潜り込み船底に正拳突きで穴を空け船を転覆させた。そして水面でばたつく乗組員を鋭い鰭で斬り付けた。ほどなく血の匂いに誘われて鮫が集まってくる。だが鮫なんかに喰わせてやるつもりは毛頭ない。俺は鮫に掴みかかり遠くへと次々と投げ飛ばした。そして最後の一匹を投げ飛ばした頃、霞む水中の遠くに巨大な影が様子を窺うように周囲をぐるぐる回っているのが見えた。海獣類だ。
俺はこの時思った。海獣類を探せないなら呼び寄せればいいんだ。それを俺のスタイルにすればいい。俺たちを差別して酷い扱いをする人間を利用して何が悪い?
俺はトップの成績で漁団に入団した。
その後も漁のたび自分の行動を正当化し続けた俺は、今では罪悪感すら感じなくなった。いいさ、いつか自分の行いを清算しなくてはいけない時が来たら堂々と清算してやる。そしていつしか俺は周囲から「餌肉狩り」というあだ名で呼ばれるようになった。
今日、目の前に2人の人間が現れた。この二人が俺を凌ぐほど強いことは纏っている空気感で分かる。ついに清算の時が来たようだが、勿論ただでやられてやるつもりはない。